2019年10月19日土曜日

字幕にびっくり!『ブルーノート・レコード』

※これは本作の字幕の批判ではなく、本作と一般的な字幕との違いについての考察するもので、日頃、字幕ルールに悩んでいる駆け出しの翻訳者さんたちを応援するための記事です。

皆さま、こんにちは。ねこです。
映画『ブルーノート・レコード』
満喫してきました!

映像だけでなく、
昔の写真にインタビュー音声を
重ねた部分もけっこうあり、
特に写真の一部が切り取られて、
レコードジャケットになっていく様子を
描いた部分などは、
ものすごくゾクゾクしました。

でも、今回、字幕を見ていて
「あれ?」と思う部分が
たくさんありました。
いわゆる普段、字幕翻訳の仕事で
指示されているフォーマットとは
大幅に違っていたからです。

もちろん、クライアントや案件ごとに
少しずつフォーマットは異なりますが
通常、翻訳者は受注時に、
こんな感じの指示書を受け取ります。
(※以下は一部抜粋したものです)

横字数 16文字
縦字数 12文字
字幕間 2フレ
イン点 音が始まるところから2フレ戻し
アウト点 音終わりから6~8フレ延ばし
斜体 電話、無線の声、場内アナウンス、試合の実況アナウンス
引用 “”(全角)
ナカグロ ・半角
三点リーダー 全角1マスに収める
アルファベット 全角
コロン :全角
かぎかっこ 「」全角
(※「2フレ」「6フレ」などの「フレ」というのは「フレーム」の略で、映像のタイプによって、30フレーム=1秒だったり、24フレーム=1秒だったりします)

今回の作品で「おや?」と思ったのは
例えば次のような点でした。
どれが「標準」と書くのは
語弊があるのですが
便宜上、<標準>と<今回>
という表現を使って列挙してみます。

<標準>
10文字程度なら、途中で改行しない。

<今回>
10文字程度でも2行になっている字幕が多い。

・・・・・

<標準>
誰かの発言の引用は
ダブルクォーテーションを使う。

<今回>
発言の引用に、かぎ括弧が使われている。

・・・・・

<標準>
作品名のあとに「を」や「が」などの
助詞がつく場合は、同じ行に入れる。

『○○○○・○○○』
 リリースした

<今回>
作品名の直後で改行され、
2行目の頭に助詞が来ている。

『○○○○・○○○』
 リリースした

・・・・・

<標準>
1枚の字幕に入れるのは、基本的に
1人の話者の発言のみ。

<今回>
同時に話しているわけではなくても
前の話者の発言と別の話者の回答が
同じ字幕に入っている。

 ○○○○だったよ  ← 1人目
 そうなのか     ← 2人目

・・・・・

<標準>
どんなに長い発言でも
字幕2枚以内で一旦文章を終え、
体言止めなども混ぜつつ、
どうにかして全体の流れを作る。

<今回>
3枚以上にわたって文章が続く字幕がある。

・・・・・

<標準>
字幕を表示するタイミングを
1フレーム(24分の1秒や30分の1秒)という
細かさで厳密に設定する。

<今回>
発言が終わったあとも
少しの間、画面に字幕が残っていたり
逆に字幕が早めに出たりする部分がある。

・・・・・

テレビや映画のネット配信をする
某社の案件などは、納品後に
字幕の品質管理をする担当の方から
「ねこさん、1~2フレ早く
字幕を出しちゃってる部分が
5か所もありましたよ。
今後気をつけてくださいね」と
お叱りを受けることもあります。

上に列挙したようなことは、
翻訳学校でも、実際の業務でも
常に口うるさく言われていることなので
普段「あれダメ」「これダメ」と
言われていることが
映画館のスクリーンに
次々と出てきてびっくり!

でも、それと同時に思ったのは、
おそらく字幕関係者以外の人は
何の違和感も覚えずに
普通に楽しめただろうなぁということ。

字幕のルールというのは
字幕の大先輩たちが、
研究に研究を重ねた上で
「こうすると読みやすいだろう」と
編み出してきたものなのだと思います。
まあ、1フレ、2フレという指定は
もう少し最近のものなのかなぁ…。

字幕翻訳の学校に通っている
翻訳者の卵さんたちや
駆け出しの翻訳者さんたちは
この1フレ、2フレという厳密な指定や
「3枚以上の字幕は絶対にダメです!」
というルールに、
ものすごく苦しんでいるかと思います。
(私もそうでした)

この『ブルーノート・レコード』は
そんなストレス解消に
ぴったりかもしれません。

1フレ、2フレどころか、
15フレぐらいのズレなんて関係なし。
(15フレって、たったの0.5秒です)
3枚字幕もありで、
文章が倒置で終わってても関係なし。

いいじゃん、これで!

そう思って一旦スッキリして、
また、せっせと1フレ、2フレの
ズレを指摘されないように
うんと耳を澄ませて
頑張ってスポッティングしましょう(笑)

多分、字幕業界のスタンダードは
そうそう変わらないと思うので、
反旗を翻すよりも、
慣れちゃった方が得です。
8ボタンマウスなどを活用して、
業務の効率化をすると
ラクになっていきますよ。

ちなみに、ねこは、頭を空っぽにして
黙々とSSTでスポッティング作業をするのが
大好きです。
なんだか瞑想をしてるみたいな気分だなぁ…と。

翻訳者の皆さん、
お仕事頑張りましょうね♪

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