2019年10月11日金曜日

極めて特殊な埼玉ガイド依頼

皆さま、こんにちは。ねこです。
ToursByLocalsという
マッチングサイト経由で
通訳ガイドをやっています。

通常は、自分の定番コースを
いくつかネット上に出し、
それを販売しているのですが、
問い合わせメッセージをいただき、
普段は扱っていないコースを
ご案内することもあります。

その極めて特殊な依頼が来たのは
6月半ばのことでした。

I have two kids adopted from Saitama and I am interested in a day tour of Saitama, including the hospital where they were born.
(訳:埼玉から養子に迎えた子どもが2人います。子どもたちが生まれた病院も含め、埼玉の一日観光を希望します)

読んでしばしフリーズ。
これは、ちと重いぜ。。

一旦、深呼吸し、しばらく考えたあと
「ぜひ、お手伝いさせてください!」と
明るい調子でお返事し、詳細を尋ねました。

お子さんは15歳の男の子と
13歳の女の子。
どちらも、X市のZ産婦人科で誕生。

ところが、教えてもらった情報をもとに
所在地を調べようとしたところ、
Z産婦人科は、何年か前に取り壊され、
その場所は駐車場になっていました。

ママ(依頼人)は、
すぐには信じがたかったようですが
何度かやり取りをする中で、
「それでも、その街を子どもたちに
見せてあげたい」という結論に至り、
埼玉観光を決行することに。

10月上旬、まずは下見。
事前にGoogleマップで
立ち寄れそうな場所をチェックし
埼京線に乗って、X駅へ。

児童館やコミュニティセンター
図書館、郵便局、銀行、
消防署、産婦人科のあった場所も
しっかり撮影。

ついでに、近隣で産婦人科についての
聞き込み調査もしてみました。
しかし、みんな、
「そういえば、何年か前まではあったけど
気づいたら、なくなってたのよねぇ」
という感じ。

同じ名前のZ病院にも尋ね、
事情も話しましたが、
事務員さんはどこかに電話をかけて
確認をしたのち、
「残念ですが、うちとは、
まったく関係はないんです」。

唯一、古いお蕎麦屋さんの
おじいちゃんが、
「昔、よくZ産婦人科に出前に行ったよ」
と懐かしそうに話してくれました。

その夜、下見で撮った写真を
Dropboxに入れて、ママに送信。
「郵便局から自分宛に
ハガキを出させるなんていいかも」と
ママの方も、いろいろ
楽しみになってきた様子。

ツアーは通常の都内観光1日と
埼玉観光1日の
2日に分けてのご案内です。
都内のホテルに迎えに行くと、
ニコニコと同じ笑い方をする
よく似た4人が現れました。

楽しい都内観光を終え、
翌日はいよいよ埼玉観光。

X市に到着し、児童館のアスレチックで
無邪気に遊ぶティーンエイジャー。
それを楽しそうに撮影するパパ。

郵便局では、ハガキを
出すだけじゃなくて
記念切手なども山ほど購入。

お蕎麦屋さんでは、
店主のおじいさんも一緒に
記念撮影。

そして、産婦人科のあった駐車場でも、
みんなニコニコ顔。
パパは娘さんに
「どうだ、ここで生まれたんだっていう
エネルギーを感じるか~?(笑)」と言って
からかってみたり。

でも、気になったのは、
ママがずっと、
「誰か先生を知っている人が
いないかしら?」と
言い続けていること。

なので、たばこ屋さんの
おじいちゃんにも
尋ねてみました。

店主:「Z病院に聞けば、分かるんじゃないかな」
ねこ:「いえ、この間、うちとは関係ないって言われたんです」
店主:「そんなわけねーよ。だって、院長たち、兄弟だぜ」

う~~~む。。。

ママもパパも、子どもたちも
Z病院に行きたいと言うので
みんなで寄ってみることにしました。

Z病院の受付で、
Z産婦人科について尋ねると、
事務員さんは、今回も
「うちとは関係ないんです」の一言。

しかし「実はこういう事情で来たんです。
施設に預けられたあとも、
院長先生が週末に自宅に連れていって
面倒みたりしていたこともあったそうなので
せめて、家族写真だけでも渡して
今、幸せに暮らしてますと
伝えることができれば…」
と伝えると、
事務員さんたちの表情が一変し、
少し待つように言われました。

しばらく待つと、スーツを着た
硬い表情の男性が出てきて
「何年か前の住所は分かるので
郵便を送ってみることはできます。
転居していたら、届かない可能性も
ありますが、それで良ければ」と。

その場で、ママが手紙を書き、
私が日本語に訳し、写真と一緒に
スーツの男性に託して、
お礼を言って病院を出ました。

驚いたのは、その後です。
なんと、そのスーツの男性が
追いかけてくるではありませんか!

「個人情報の問題もあって
さっき、院内では言えなかったんですが
Z産婦人科の院長は、高齢だけれど
定年後もお元気で、先月も、
こちらの病院にお見えになりました。
なので、この写真と手紙は
確実にお届けできるはずです!」と。

その後、ニコニコ顔の4人家族は
埼京線のX駅の切符を記念に持ち帰り、
JR駅名キーホルダーも買って
ニコニコ顔で帰っていきました。

・・・・・

「ガイドの仕事に下見は必須」
とはいえ、今回のケースは
本当に特殊です。

他のガイドさんだったら、
依頼を断っていたでしょうか?

それとも、あっさり
付近の観光をして
無難に終えていたでしょうか?

それとも、ねこのように、
自分も家族の一員になったつもりで
トコトン付き合っていたでしょうか?

ここまでやるのはバカだと
思われるかもしれません。
でも、ねこは、
つかの間、5人目の家族として
埼玉の街を一緒に
ニコニコ歩けたことを
心から嬉しく思っています。

(埼玉県の花、サクラソウがデザインされたマンホールを囲んで記念撮影)

(追記)
コーヒー豆、紅茶、クッキー、チョコレートなどの
お土産をたくさんいただいた上に、
カードも、いただきました。
自宅に帰って、封筒を開けると、
一生懸命書いた日本語のメッセージと一緒に
福沢諭吉さんが入っていました。
よーし、お金貯めて、
いつか会いにいくからねっ!