2020年8月5日水曜日

字幕翻訳作業についての細かい話

皆さま、こんにちは。ねこです。この間は、スポッティングまでのことを書いたので、今日はその続きを書きますね。スポッティングの次にする作業は、原文ウインドウへの原文の貼り付けです。その時に大活躍してくれるのが、ゲーミングマウス。8つのボタンに、こんな動作割り当てをしています。


まずは、動作割り当ての解説をしましょう。左クリック、右クリックは普通どおり。ここは特に設定を変えたりはしません。

左の親指で操作しやすい場所にコピーとペースト。これは何の作業をする時にも、よく使いますよね。字幕翻訳中に使う場面としては、原文にある単語を辞書に貼る時。あとは、原文の貼り付けで間違えた時の修正ですね。

人差し指を伸ばすと届く位置にPage DownとPage Up。これは、SSTのショートカットと連動させていて、Page Downで次の字幕に、Page Upで前の字幕に移動します。

スクロールボタンには、F12キー。これもSSTのショートカットと連動させていて、「現字幕の再生」を割り当てています。

そして、親指を遠くに伸ばしたところにEnter。これは、原文の貼り付けでは使いませんが、例えばGoogle検索をする際、検索バーのところにキーワードを貼り付け、親指でこのEnterを押すと、右手をマウスから離さずに検索ができます。その他、マウスから手を離してEnterを押す場面というのは、意外と多いので、なかなか使えます。

さて、具体的にどう原文の貼り付けを進めていくかですが、まずは、「台本ウインドウに原文が貼られている」という前提でスタートしますね。

1)中指で「現字幕の再生(F12)」を割り当てたキー(スクロールボタン)を押し、ハコ1つ分の音を聞きます。

2)それに該当する原文をマウスでドラッグし、台本ウインドウの左上にある「コピー」を押します。


3)アウト点を縮める必要がある場合は、マウスをアウト点付近に置いて、「←→」が表示された状態で、ちょっと左右に動かすと、アウト点をつかまえることができるので(ハコの一番右側が赤い線になってる状態)そこで、左手の小指を「Shift」キー、右手の人差し指を「←」キー、薬指を「→」キーに置いて、アウト点の調整をします。特にカット変わりがある時は要注意ですね。

4)アウト点の調整がない場合、あるいは、アウト点の調整が済んだら、マウスで「次の字幕に移動(Page Up)」を割り当てたボタンを押します。

あとは、1)から4)の繰り返し。会話が続いていてアウト点を縮める必要がなければ、マウスだけで作業ができちゃいます。

次に、実際の翻訳の手順とペースについて。私は、目の疲れや腰痛などを防止するために、「25分作業」→「5分休憩」→「25分作業」→「5分休憩」→「25分作業」→「5分休憩」→「25分作業」→「30分休憩」というサイクルで作業をすることにしています(「ポモドーロ・テクニック」という時間術です)

そして、自分で翻訳可能な字幕枚数に応じて、一応、こんな時間割を作ります。

10:00 字幕~20
10:30 字幕~40
11:00 字幕~60
11:30 字幕~80
12:00 ランチ
12:30 休憩(NHK語学)
13:00 字幕~100
13:30 字幕~120
14:00 字幕~140
14:30 字幕~160
15:00 休憩
15:30 字幕~180
16:00 字幕~200
16:30 字幕~220
17:00 字幕~240

25分で何枚訳せるかは、素材の種類によってかなり差はありますが、私の場合、込み入ったドキュメンタリーなどでは、25分間で15枚ぐらい、テンポのいいドラマでは25枚ぐらいです。これは、「そこそこ完成に近づけつつも、ハマりそうになったら保留」という完成度でのペースです。読解やリサーチで、どうしてもハマりそうになったら、そこは★印を付けて後回しにします。★印があまりに多くになってしまう場合は、一旦、作業を中断して、重点的にリサーチをしたり、ネイティブに質問を送ったりして、自分自身が内容を理解できている状態に持っていきます。

さて、実際にいつもこの勢いで訳しているかというと、実はそうでもないんですよね。ニャンコがパソコンに飛び乗ってきて、そのまま30分遊んじゃったり、休憩の5分を使ってストレッチをしている間に寝落ちしたり…と、日々、いろいろなトラブル(?)が起きます。なので、240枚まで終わると夜の9時や10時になっているということも、しばしば。ただ、本当に切羽詰まっている時は、このペースで訳すことは可能なので、1日に300枚訳すこともあります。

まあ、見積もりとしては、このペースで訳せる素材の場合、「1日あたりおおよそ200枚程度」として納期までの予定を立てます。23分程度の比較的訳し易い内容のテレビ番組で、字幕枚数が360枚だった場合、1日目はスポッティング+字幕160枚、2日目は字幕200枚。3日目に見直しとリライトをして正午に納品という感じ。

もちろん、最初からこんなペースで訳せていたわけではありません。ただ、長くやってるとやっぱり翻訳速度は上がっていくものなんですね。先日のJVTAのYouTubeでも言っていましたが、「字幕の型」ってあるなぁ…思います。「文章の構造がこうなってる時は、こう処理する」みたいなこともあるし、あとは、「原音とは全然違う言葉を使いながら全体をうまく言い換える場合の発想方法」などでしょうか。

このコツというかテクニックのようなものは、ドキュメンタリー番組やドラマの字幕をトコトン書き写してつかみました。前述のYouTubeの中で、おふたりが「写経」と言っていたものです。原音を聞きつつ、字幕を書き出していると、「あ~、そういう発想ですかぁ…」「へぇ、そうやって辻褄を合わせるんだぁ」と気づくことが山ほどあります。おそらく、そうやって身につけた「字幕の型」のおかげで、長年の間にちょっとずつペースアップできたんだろうなぁ…と思いました。

逆に言うと、「自分の字幕の型」にハマりすぎている可能性もあるので、あらためて「写経」に取り組んで、他の翻訳者さんたちの「字幕の型」をお裾分けしてもらおうかなと思っています。映画やドラマを見ていて、字幕の作り方(発想)が見事だと、感激してニヤニヤしちゃうことってあるんですよねぇ。よ~し、写経するぞ!

JVTA+(プラス)vol.20: 
1人でもできる翻訳の勉強法を考えてみる


2020年7月20日月曜日

爆速!字幕スポッティング

皆さま、こんにちは。ねこです。今日は字幕翻訳者さん向けのお話です。SSTを使って字幕制作をしている皆さん、SSTでのスポッティング作業の速度は、どんな感じでしょうか。私は25分間の作業で、およそ映像8分尺ぐらいのスポッティングをしています(※25分作業をしたら5分間休憩を取るため、計測単位は25分)。

といっても、これは、イン点だけのスポッティングで、アウト点は、訳しながら調整していきます。具体的に解説しましょう。

まず、映像全体を長い1つのハコにします。23分の映像だとしたら、23分を1枚にしちゃうのです。そして、最初から1枚ずつ、「現字幕の分割」で切っていきます。

ここで大事なのは、ショートカットキーの設定です。「ファイル」→「ショートカットキー設定」で、「現字幕の分割」のところに、私は「Ctrl+D」を割り当てました(※DivideだからDでどうかなと)。すぐ修正ができるように「後ろに存在する字幕と結合」には「Ctrl+K」を割り当てています(※KetsugouのKです:笑)。

スポッティングの時の手のポジションは、次のとおりです。

左手の小指:「Ctrl」
左手の中指:「D」
右手の薬指:「→」
右手の人差し指:「←」

これで「→」を長押ししながら音の出を確認し、聞こえたところからトントンと「←」を押してイン点を決め、「Ctrl+D」でスパッ! 長い羊羹(ようかん)をストンストンと切っていく感じです。

カット変わりで切る様子をスクリーンショットにしました。「イン点は1フレ、アウト点は2フレ内側、字幕間3フレ」という指定ということにします。今、TCのフレームは17になっていますね。


次の18でカットが変わりました。


イン点は1フレ中なので、切るのは19。


ここで、「Ctrl+D」でスパッ!


これ、何がすごいかって、「イン点は1フレ、アウト点は2フレ内側、字幕間3フレ」という指定なので、前の字幕のアウトも、これでピッタリ合っているんです。言ってる意味、わかるかしら? わからなかったら、実際にSST上で、同じことをやりながら、確認してみてくださいね。

別の例もお見せしましょう。イン点だけで切っていくと言いましたが、イン点のほんの少し手前にカット変わりがあって、前の字幕のアウト点をそこに合わせた方がいい場合は、まず、そちらに合わせて切ってしまうという方法があります。

こちらをご覧ください。TCのフレームが23になるとカットが変わるので、1フレ中の24でスパッと切りました。


では、前の字幕のアウト点を確認してみましょう。字幕の間隔を3フレ強制にしてあるので、20が前の字幕の最後のフレームになります。


21と22はハコの外で、カット変わり前ですね。



23がカット変わりで…


24が次の字幕のイン点になっています。


ただし今回は、実際に音が出るのが、もう少しあとなので、現在のイン点にカーソルを合わせて、「Shift」+「→」を押し、トントントンと音の出るところを探します。そして「音の出たところから2フレ戻し」という指定なら「Shift」+「←」でトントン。はい、これで、前の字幕のアウト点のカット変わり処理も、次の字幕の音に合わせたイン点もバッチリです。


スパッと切ったあと、「あっ、しまった!」ということがあっても、焦らず騒がず、「Ctrl+K」でくっつければ元どおり。

この方法だと、30分番組なら2時間程度で切り終わります。そのあとの手順としては、原文をコピペしながら、アウト点を縮めていきます(続きの作業については、またあらためて書きますね)。

ちなみに、字幕翻訳スクールでは、こんなふうには習っていません。これには、なかなか悲しい事情がありまして…。35万円という大金を出してSST G1を買った直後、SSTが暴走するという事態が起きたのです。どういうわけか、「Shift」+「→」を押すと、時々、そのまま再生が止まらなくなり、「Esc」でも、「Ctrl」+「Alt」+「Del」でタスクマネージャーを出しても止まらず。この状況が頻発したため、やむを得ず、こんな方法を考え出出すことになったのです。でも、なかなか効率がいいので、それ以来、すっかり気に入り「羊羹戦法」と呼んで愛用しています(笑)。

ちなみに、普通に学校で習う方法でスポッティングをしていた人が、急にこの方法に切り替えると、アウト点を縮め忘れるということが起きるようなので、羊羹戦法導入の際は、十分お気をつけくださいませ。

ちょっとしたテクニックやアイテムを導入して、作業効率を上げると、その分、じっくり字幕を練る時間が確保できます。8ボタンマウスやデュアルモニターの導入も、ぜひ、ご検討くださいね。

<関連記事>
裏ワザ補足説明
https://interesting-languages.blogspot.com/2013/10/blog-post.html

ハコ切り天国
https://interesting-languages.blogspot.com/2017/08/blog-post_16.html


2020年7月13日月曜日

”Oh my God"の訳語を考える

皆さま、こんにちは。ねこです。ここのところ、シリーズで訳している車関係の番組で、やたらと"Oh my God"を連発する登場人物がいます。もちろん、これを「ああ 私の神様」と訳すわけにはいきません。「なんてこった」というのも、ちょっと古くさい印象。というわけで、これまでに使った訳をいくつか挙げてみました。

・すごい
・驚いた
・びっくり
・参った
・マジかよ
・ウソだろ
・ヤバい
・マズい
・冗談だろ

セリフの字幕を訳す時、特に大切にしているのは、「もし、この人が日本語で話していたら、ここで何て言うだろう」と考えてみることです。文字を訳すというよりも、感情を訳すという感覚に近いでしょうか。

以前、翻訳家の柴田元幸氏のトークショーに行った時、「字幕を作る時に、このセリフの核は何か、ユーモアなのか、辛辣さなのか、そこを考えて言葉を選ぶ」と仰っていました。字面だけにとらわれず、しっくりくる日本語を探りながら、引き続き頑張って訳します。

柴田元幸氏が字幕を訳す
https://interesting-languages.blogspot.com/2015/11/blog-post_19.html


2020年6月24日水曜日

日本語表現力を養える本

皆さま、こんにちは。ねこです。日本映像翻訳アカデミーのYouTubeにハマっています。特に面白かったのが、こちらの回。もし、映像翻訳のお仕事をしていて、まだ見ていない人がいたら、必ず見てください。

vol.6:映像翻訳ディレクターが解決! 質問・お悩み相談会


いろいろ役に立つお話が多いなか、とりわけ「おおっ!」と思ったのが、「日本語表現力を養える本」について、ディレクターの藤田奈緒さんが語った部分です。(↓頭出しをしておきました)
https://youtu.be/24RFjv8GG2Q?t=243

翻訳者なら必ず持っている「朝日新聞の用語の手引」や共同通信社の「記者ハンドブック」をパッと開いて気になったところを読んでみるというのです。字幕翻訳のお仕事では「この文字を漢字で書くべきか、ひらがなで書くべきか」の判断をする時や、外来語のカタカナ表記を確認する時に使っていますが、「そうか! そんな使い方があったのか!」と目から鱗が。

今、パッと開いたページを読んでみただけでも、「おっ? そんな日本語知らないぞ」というのが、いくつかありました。また、「そっこう」という言葉ひとつ取っても、「即行」「速攻」「即効」「速効」などいろいろ出てきて、用例を眺めるだけでも、すごく勉強になります。

また、藤田さんのお話で、カリフォルニア在住の日本人の方が、辞書を最初から最後まで読んだというエピソードもあったので、とりあえず、手持ちの英和辞書をパッと開いて眺めてみました。

不思議なことに、たまたま開いたページに、Englishがありまして、そのまま読み進めると、「コーパスの窓」というコラムがあり、Do you speak English? Can you speak English? のニュアンスの違い(否定文・疑問文では能力に言及するcanを使わない形が優勢)などの情報が書かれていました。


次にパッと開いたページには、likeがあり、like doing like to doの使い分けなどが紹介されていました。さらに、パッと開いたら、moreが。なんと、moreの解説は、ほぼ2ページにわたって続いていて、びっくり! 辞書を作った人は、一生懸命こういう情報を載せてくれていたのに、これまで一度も見ていなかったなんて…。

そういえば、国語辞典については、三省堂の「新明解国語辞典」の語釈が面白いと評判ですよね。そちらも買って読んでみたくなりました。

毎日ちょっとした隙間時間にパッと辞書や用語集を開くという習慣は、なかなかいいものです。日々、いろいろな発見が楽しめます。初めて用語集を買ったのは、2001年。あ~、19年もの間、「漢字かひらがなか」という確認だけで用語集を使ってたなんて、もったいないことしたなぁ…。

2020年6月23日火曜日

バーチャルツアー成功事例

皆さま、こんにちは。ねこです。昨日、建築物のバーチャルツアー(英語)に参加しました。中銀カプセルタワービルという建物で、黒川紀章氏が設計したものです。

黒川紀章の『中銀カプセルタワービル』築47年の部屋が生み出す“不動産”以外の価値
https://www.asahi.com/and_M/20190409/1450039/ (2019.04.09 Asahi.com)

主催はShowcase Tokyoで、参加したツアーの申し込みページはこちら。
https://showcase-tokyo.com/tour/nakagin/

率直な感想を偽りなくお伝えしましょう。実は最初の時点で、私は現地からの中継だと勘違いしていたため、ガイドさんも部屋の中にいるのを見て、「あれ? 中銀タワーの中かしら? それともご自宅?」とちょっぴり困惑。その後、参加者の自己紹介タイムが始まったので、「う~む、ひょっとして、これは退屈なZoomミーティングになってしまうのかしら?」という微かな懸念が…。

でも、それは全くの杞憂でした。ガイドのHALさんが、写真を使いながら、建物の中にみんなを誘っていく様子は本当に見事で、しかも、動画の使い方が絶妙です。写真だからこそ分かりやすいもの、動画だからこそ臨場感が伝わるもの、見事な使い分けにひたすら感心しまくりでした。

説明も長すぎず短すぎず、心地いいリズムで進行し、参加者をぐいぐい引き込んでいきます。また、最初に自己紹介タイムがあったからこそ、質問しやすい雰囲気にもなっていて、そうか、あの自己紹介には、そんな効果があったのかと納得しました。本当にみんなで一緒に建物の中を歩き回っている気分で、ちょこちょこと質問も飛び交いながら、和気あいあい。ツアーが終盤に近づいた時、「えっ? もう本当に1時間以上経ってるの?」と心底驚きました。

ツアーの組み立て方が完璧な上に、ガイドさんのお人柄も、ツアーの雰囲気を盛り上げているなぁ…と実感。画面の向こうの満面の笑みから120パーセントの建築愛が伝わってきて、丸一日でも、この人のお話を聞いていたい!という気持ちになりました。

「バーチャルなんてつまらない」と思い込んでいる方、ぜひ、一度、こちらのツアーに参加してみてください。ツアー自体を大満喫できるし、建築への興味がグッと高まるし、実際に中銀カプセルタワーを訪れてみたくなります。

「バーチャル v.s. リアル」みたいな構図で物事を捉えて、バーチャルを否定する人もいるけれど、リアルとバーチャルは、つながっていると思います。だって、そこに本当に人がいるんだもの。ガイドのHALさんに、リアルで会って、いっぱい建築の話を聞いてみたい!! そんな気持ちになった素敵なバーチャルツアーでした。

<恥ずかしい余談>
この中銀カプセルタワーは、浜離宮恩賜庭園のすぐ近くにあります。実はガイド初心者だったころ、超富裕層のご夫婦を庭園にご案内した際、「あら? あの変わった建物はなあに?」と聞かれました。何の知識もなかった私は「あら? ほんと、面白い建物ですね。初めて気づきました」と流してしまい、あとで調べてびっくり仰天! 「ごめんなさい、あれは、とても有名で貴重な建物でした!!」と詳細を添えて、お詫びのメールを送ったことがあります。ひょっとしたらお客様は最初から知っていて、ガイドの知識を試すために質問をしてきたのかなぁ…と思うと、本当に顔から火が出そうなほど恥ずかしくなります。でも、それ以降、「あそこに見えるキューブ型の建物は…」と、説明できるようになりました。次にガイドする時は、「バーチャルツアーで中を見せてもらったんですが…」と、さらに話を膨らませていくことができそうです。

(2018年11月20日撮影 @Kumiko Hirama)


  

2020年6月14日日曜日

人はバーチャルツアーを楽しめるのか?

皆さま、こんにちは。ねこです。このたび、ToursByLocalsでバーチャルガイド・デビューをしました。現在、登録している4,617人のうち、バーチャルツアーを始めたのは43人。こちらがツアーの案内ページです。
https://www.toursbylocals.com/Live-Virtual-Tours

ツアーは大きく分けて2種類あって、実際にガイドが観光地から中継するものと、ガイドも自宅にいて、写真や動画などを使って観光地について語るものがあります。私は当初、春日部から日本人の暮らしを紹介するツアーを提供しようと思い、スマホのスタビライザー(映像が激しく上下するのを防ぐもの)を4月上旬に購入。早朝の春日部駅や神社を何度も何度も訪れ、何を見せるか吟味してツアーを組み立て、何度もリハーサルをしました。

しかし、ツアーを販売する以前の問題として、無料のテストツアーに参加してくれるお客様が見つかりません。まあ、考えてみれば無理もありませんよね。ローマやフィレンツェ、ニューヨークからの中継を見たい人はいるとしても、ローマやニューヨークから電車で1時間の郊外を中継で見たいというのは、よほど、その街に個人的に思い入れがある人だけでしょう。

そこで、頭を切り替えて、手持ちの都内写真を使って、自宅からバーチャルツアーを提供することにしました(※実際に浅草寺などを訪れて中継をするのは、移動時間や交通費を考えると、あまり現実的ではないので選択肢から外しました)。

そして、先日、ToursByLocalsの常連のお客様を相手に、テストツアーを実施。"Are Japanese people religious?"というテーマで、明治神宮と浅草寺をご案内しました。




写真を見せるだけでなく、場面に合った音も用意し、鳥居をくぐる、手水舎でお清めをする、二礼二拍手をする、絵馬に願い事を書く、おみくじをひくなどのアクティビティーも取り入れました。

1時間のツアーが終わったあとは、しばし放心状態。隣の部屋にいた母は、「あちらの方、随分、楽しそうに笑っていたわね」と言ってくれたけれど、心の中に妙な違和感が残っていました。翌日、父にツアーのPowerPointを見せていたところ、20分を過ぎたところで「お客さん、『長すぎる』って言ってなかった?」と。父はツアーの半分も見ないうちに飽きてしまったようです。そこでハッとしました。

“通訳案内士として前向きに行動して、みんなを勇気づけたい”という気持ちで、ここ数か月かけて、バーチャルツアーのことを考えてきたけれど、ひょっとして、バーチャルツアーなんて、全然面白くないのかも…。ガイドの仲間に相談してみたところ、やはり、皆、いろいろな場面で「オンライン疲れ」を感じていて、「結局、旅行はバーチャルよりは、リアルな近場が人気になるだろうね」という話になりました。

ただ、珍しい建築物の内部を案内するバーチャルツアーは、かなり人気とのこと。また、お客様相手ではなく、海外の旅行会社を相手に下見のためのバーチャルツアーをする(実際に観光地やホテルなどに出向いて、スマホを使って様子を伝える)というのは、ニーズがあるかもという話になりました。

バーチャルツアーを実際にやってみて感じたのは、ある種の「虚しさ」でした。飽きさせないようにと思って、アクティビティーをいろいろ取り入れてみたものの、結局のところ、無理して大人に「観光ごっこ」をさせてしまっていたわけです。

ふと、相田みつをさんの言葉を思い出しました。

   トマトがトマトであるかぎりそれはほんもの
   トマトをメロンに見せようとするからにせのもとなる

「実際に行った気分になれる」というのを目指して変な努力をするから、余計に虚しくなってしまう。でも、最初から「写真を使って、すごく面白い説明をする」ということにフォーカスしたら、全然違うものになるかもしれません。

実際、写真の展示会「CP+」では、毎年、著名な写真家さんたちが、絶妙なトークで来場者を釘付けにします。それを見習って、観光地の写真を使ったトークで、海の向こうで暮らす人たちを笑わせたり感心させたりすることを目指せばいいのかもしれません。もちろんガイディングの知識も必要だけれど、それ以上に、トークのスキルを上げる必要がありそうです。

また、一般的な旅行者と対象とするよりも、何らかの専門的な知識やマニアックな情報を求めている人を対象にした方がニーズがありそうなので、写真マニア向けに都内撮影スポットについて解説したり、初めて東京を訪れる予定の人に公共交通の使い方などを解説したりという形で、情報提供型のセッションを提供してみてもいいのかもしれません。

…と、ここまで頑張って前向きにブログを書いてきましたが、本音を言うと、今は完全に翻訳の方に心が傾いてしまっています。しかも、たった今、観光業について「オンラインやバーチャルだけでは物足りないはず」という文章を目にしてしまい、すべて投げ出したくなってしまいました。

でも、こうして壁にぶち当たるというのは、何かのチャンスなんだ!という確かな予感があります。翻訳、写真、英語、風景、旅…。頭の中でキーワードがぐるぐるしています。5年後、10年後、振り返った時に、「今思うと、あそこでつまづいたのが最大の転機でした」と言ってそうな予感。

今、字幕翻訳の仕事の中で、旅を満喫しています。車で、バイクで、世界のあちこちを走り、登場人物の気持ちになりきってセリフを訳しています。続きを訳すのが楽しみで、毎朝、ワクワクしながら飛び起きます。

また、Route 66をシカゴからロスまで走った時の写真のレタッチ作業を最近やりはじめ、(自分自身の思い出なので当たり前ですが)ものすごくワクワクしています。


人はどうしてワクワクするのか? そこを突き詰めていくと、何かヒントがあるのかもしれません。「写真や映像では満足できない」わけではなくて、「写真や映像が人を楽しませる」場面は世の中に溢れています。ひょっとしたら、これまで撮りためた写真で何か面白いことができるかもしれません。

とりあえず、一昨日のJVTA(日本映像翻訳アカデミー)のメルマガで紹介されていた本でも読んでみようかしら。何かいいヒントが見つかりますように♪
https://www.jvta.net/tyo/beautiful-%EF%BD%8Dessage/

2020年6月2日火曜日

アメリカ人が作った日本人向け発音講座

皆さま、こんにちは。ねこです。先日、Zoomでジョシュア・ポペノ先生の発音矯正講座に参加しました。まずは、ポペノ先生について、簡単にご紹介しましょう。先生はニューヨーク在住のアメリカ人で、16年ほど日本で暮らし、声優として活動をされていました。日本人英語のクセや、その直し方を熟知しているため、その経験を生かし、現在はニューヨークで、日本人駐在員や留学生を対象に、グループレッスンやプライベートレッスンを行っています。

先日のZoom講座は、ニューヨークから生中継で行われました。土曜日の午前10:00から11:30(日本時間)まで、たっぷり1時間半。いわゆる英語発音の「肝」とも言える部分の解説です。参加者は約200人。音声は全員ミュートで参加し、顔を出すかどうかは自由選択。半数ほどの人が、画面をオンにし、鏡を片手に、一生懸命、口を動かしながら参加していました。こちらは、その時のスクリーンショットです。先生から許可をいただいて掲載しています。


いつも、苦手だなぁ…と思う母音が3つ勢揃い。意識しないと、ごちゃ混ぜになっちゃうんですよねぇ…。でも、不思議と先生の解説を聞きながら、真似して口を動かしていると、ちゃんと使い分けられそうな気がしてきます。

受講中、コメント欄で質問も受けつけていて、講座の最後に、1つ1つ丁寧に回答してくださいました。本当に有意義な1時間半でした。


…と、ここまでが先日のZoomセミナーの感想なのですが、本日のブログは、さらに続きます。実はポペノ先生との出会いは、2015年。ニューヨーク在住の友人の何人かが、先生のグループレッスンを受講していたので、面白そうだなと思い、プライベートレッスンを申し込みました。

私自身が大学時代に言語学を専攻していて、しかも字幕翻訳者だということから、その後、ポペノ先生から、発音矯正ビデオの字幕を訳す相談を受けました。実際に翻訳を始めると、いくつか迷いが出てきました。

通常の字幕翻訳の仕事では、映像を受け取って、その映像に合わせて字幕をつけていきます。しかし、ポペノ先生から送られてきたのは、収録に使う予定の英文原稿でした。当時、柔軟な考え方のできなかった私は大パニック! 「字幕というのは、見る人が読み切れるように1秒につき4文字ぐらいしか入れられないし、字幕を表示するタイミングも、いつも、30分の1秒まで細かく設定するので、これでは、ちゃんとした字幕を作れません」なんて言ってしまったり…。しかし「ちゃんと配慮して見やすい動画にするから信頼してほしい」と説得され、そのまま翻訳を続けることになりました。

もう1つの迷いは専門用語。例えば、母音の種類で "open, front vowel"というのを、どう訳したらいいか。言語学的には、これは「前舌広母音(まえじたひろぼいん)」といいます。なんかアヤシイ漢方薬の名前みたい(笑)。どういう表現を使うのがベストか、語学学習に熱心な友達に「A、B、Cのどれがいい?」とアンケートをとりました。

例文1)
/æ/ is an open, front vowel that you do not have in Japanese. 
A:/æ/は、「前舌広母音(まえじたひろぼいん)」といって、これは日本語にはない母音です。
B:/æ/は、「オープン・フロント母音」と言って、これは日本語にはない母音です。
C:/æ/は、開ける母音で、舌の位置は前です。これは日本語にはない母音です。

例文2)
Words like bead, first, rich, and moon are made with closed vowels. 
A:first、rich、moonなどの単語は、「狭母音(せまぼいん)」です。
B:first、rich、moonなどの単語は、「クローズ母音」です。
C:first、rich、moonなどの単語は、「閉じる母音」です。

結果は、Aが50%、Bが20%、Cが30%となったので、先生とも相談し、Aの専門用語を使うことになりました。「前舌広母音」「狭母音」などの言葉を初めて見ると、一瞬、「なんじゃそりゃ?」と思ってしまいますが、実際、漢字っていうのは、とても完結に意味を表してくれているんですよね。

なので、この講座を見始めて、「なんじゃそりゃ?」と思っちゃった人は、もうちょっと我慢して見続けてみてください。わりとすぐ慣れますから(笑)。

まあ、そんな感じで、英文のファイルを受け取っては、行間に日本語訳を書いて送るという作業が始まりました。当初、訳すファイルの総数は、母音と子音の数ぐらいかしら…と思っていたのですが、なんと、最終的に105本にもなりました(驚)。

イントロダクションだけで、こんなに!
(※拡大して見てくださいね)


母音はなんと…


まだまだ続いて…


全部で30本以上!

子音やリズム、連結の解説もあり…


私が重要視しているイヤー・トレーニングも5本。


このイヤー・トレーニングというのは、日本人がうまく使い分けることのできない2つの音を交互に聞いたり発音したりして、自分の耳を育てるというものです。私は今もこのビデオを使って、毎日練習しています。


そして、これまで学んだものを文章の中で練習するビデオもあります。


翻訳作業が終了したのは、かなり前で、その後、先生は、1本1本せっせと録画しては、1つ1つ丁寧に字幕をつけていったそうです。完成した講座を見た時には、本当に感激しました! 字幕のタイミングについても、当初、私はテレビや映画の業界スタンダードにこだわってしまったけれど、あら、普通に読めるじゃないですか。

講座がサブスクリプションで、月額3,000円と聞いた時も「今どきはYouTubeで何でも無料で見られるのに月額3,000円じゃ厳しいでしょう」と言ってしまったのですが、これだけのコンテンツに加えて、毎週土曜日に受講生専用のZoomセミナーがあるそうなので、それを考えると、安すぎなくらいだと思います。
(※宣伝料はいただいていませんよ:笑)

発音をもうちょっとなんとかしたいなぁ…と思いつつ、これまで特に何もしてこなかった方、よかったら、まずは月末に開催される無料のZoom講座に参加してみませんか? 次回は6月27日土曜日の午前10:00から11:30だそうです。

↓↓↓ こちらのリンクから申し込み可能です。
https://forms.gle/As2F4mLW2VhJeqGY6

毎月第4土曜日に無料セミナーを行う予定とのことなので、今回は都合が合わない方も、ポペノ先生のFacebookページのセミナー案内を見て参加してみてくださいね。

私は6月27日のセミナーに参加予定です。皆さま、ぜひZoomセミナーでお会いしましょう!

<関連記事>
発音の神様 ポペノ先生(2015年1月)