2018年6月2日土曜日

「マイルス」か「マイルズ」か?

皆さま、こんにちは。ねこです。
今日は外国人の名前の発音と
字幕の表記についてお話ししましょう。

先日、写真家の内山繁さんから
こんな質問を受けました。

「ねこちゃん、僕ずっと、
Miles Davisの名前を
マイルスって書いてるんだけど
実際の発音ってマイルズなの?」

にゃっ!?

う~ん、言語学的に言うと、/z/なので
「ズ」と濁る音になるのが正解です。
これをきちんと説明するには、
「有声音」と「無声音」という
話から始めなくてはいけないんですが、
そこを端折って大雑把に言うなら
/l/つまり「ル」の音は有声音で、
この音に続くsの音は/z/の音になります。

"girls"は「ガールズ」だし、
喉スッキリの"HALLS"も「ホールズ」。
なので、"Miles"も音声学的には
「マイルズ」です。

映画の予告編で
発音を聞いてみましょう。
(※動画の再生位置を指定してあります)
https://youtu.be/ssfTNCTVT5U?t=15

どう聞こえましたか?
う~ん、微妙?(笑)
どっちにも聞こえる?
まあ、実際のところ、
そういう微妙な音だと思います。

それを白黒ハッキリさせる必要は
ない気もするわけですが、
カタカナで書く場合、
白黒ハッキリさせなくてはいけません。
濁点をちっちゃく書くとか
点々を1つだけ書くとか
できるといいんですけどね(笑)。

では、どう書きましょう?
発音記号としては/mailz/ですが、
「マイルズ」という表記で
いいのでしょうか?
字幕翻訳の場合で考えてみましょう。

字幕で使う表記については、
翻訳者は極力、「世の中で
最も受け入れられている表記は何か」
という基準で正しい表記を探します。

今回、調べているのは
Miles Davisという
ジャズ・トランペッターの名前なので
とりあえず、考え得るカタカナで
Google検索をしてみましょう。
こちらをクリック

すると、あ~らびっくり!
「マイルズ・デイヴィス」で検索したにも関わらず
候補として「マイルス・デイヴィス」の
検索結果が表示されました。
つまり、Google先生の判断としては
「マイルズ」より「マイルス」の方が
圧倒的に多いということです。

実際のところ、出版されている
書籍やCDを見ると、このとおり。


うわー、全部「マイルス」だ!

ジャズを全く知らない人は、
名前を聞いたことがないかもしれませんが、
このトランペッターさん、
ジャズ好きの人たちの間では、
「マイルス」という名前で知られています。

おそらく、最初に日本に紹介された時点で
誰かが「マイルス」という表記を使い、
それをみんなが真似して書き、
新聞や書籍、CDでも、
「マイルス」という表記が使われたのでしょう。

なので、字幕で書くとしたら、
「マイルス」の方を選ぶのが無難です。
そして、申し送りに「言語学的には
『マイルズ』に近い音になるけれど
日本国内には圧倒的に
『マイルス』の表記が多いです」と
書いておけば完璧です。

ところが、これが、
評論家や作家が書く文章になると
表記の判断は、本人に
委ねられることが多くなります。

こちらは村上春樹氏の
「ポートレート・イン・ジャズ」。


「マイルズ」の表記になっています。
村上氏は、正しい音での表記に
こだわることで、よく知られています。

結局のところ、正解は存在しません。
翻訳者としては、
世の中で最も通用する表記を書き、
他の可能性があるなら、申し送りで触れ
最終的な判断はクライアントに委ねます。

本の著者の場合、
著者の裁量で決めることになるかと思います。
(あとは出版社との力関係にもよるのかな)

というわけで、内山さん、
「マイルス」でOKです!

それよりも、さっきの写真の
中山康樹氏の「デイヴス」
「デイビス」「デイヴィス」の
表記揺れの方が
よっぽど気になったりなんかして(笑)


<本日のおまけ>
最近、ふと気づいたら、
ジャズ関連の知り合いが
すごく増えていました(笑)。

せっかくなので、ここで
皆さんの著書を紹介しますね。

写真家、内山繁氏の最新作。
「JACO ジャコ・パストリアス写真集」


整形外科医であり、評論家でもある
小川隆夫氏の最新作。
「ジャズ超名盤研究」


評論家でもあり、編集者でもある
村井康司氏の最新作。
「現代ジャズのレッスン 1959年から考える」


先日のブログでもご紹介した
常盤武彦氏の最新作
「ニューヨーク・ジャズ・アップデート」


この人たち、なんだかんだで
つながりがありまして、
6月9日には、常盤氏&小川氏の対談、
6月24日には、内山氏のお店で
常盤氏のトークショー、
7月14日には、常盤氏&村井氏の
対談があります。

ジャズ好きの検索で、
うっかりこのページに来た人は
ぜひ、スケジュールを
チェックしてみてくださいね。