2011年10月11日火曜日

"Stay Hungry, Stay Foolish"

おはようございます。ねこです。
今日は張り切って朝からブログを書いています。

さて、友人からスティーブ・ジョブズ氏の言葉の
訳し方について質問がありました。
こちらの言葉です。

"Stay Hungry, Stay Foolish"

いくつか代表的な訳例があります。

「ハングリーであれ、愚かであれ」
「常にどん欲であれ、愚かであれ」
「どん欲であれ、バカであれ」
「どん欲であれ、愚直であれ」
「どん欲であれ、愚か者でいろ」

訳文の検討にあたって、まず文の成り立ちを見ていきましょう。

まず、"stay" は、この場合「~のままでいる」という意味になります。
"stay young(若さを保つ)" "stay healthy(健康でいる)"
といった使い方をします。
ここでは、ほとんどの訳例が「○○であれ」という訳し方になっています。

"hungry" というのは「空腹の」という意味もありますが、
ここでは「(~に)飢えた」「渇望して」というニュアンスで使われています。
「どん欲であれ」というのは、なかなかぴったりした表現だなと思います。
"stay" のニュアンスを出すために、「常に」という言葉を添えるのも
なかなか良い工夫ですね。

そして、一番問題になってくるのは "Foolish" の訳し方です。
一般的な訳語としては「愚かな」「分別のない」「「ばかげた」
といったものが挙げられます。

友人の質問は、これを「無邪気であれ」と訳したほうが
しっくりくる気がするんだけど、どうだろうか?
というものでした。

"Foolish" という単語自体には「無邪気」という意味はありませんが、
ねこの個人的な感覚から言うと、この訳語はアリです。
ジョブズ氏が伝えようとしていることは、
要はそういうことなのだと思います。
しかし、翻訳者という立場で訳すとしたら、
これは、なかなか難しいところです。

「無邪気」という言葉から受ける印象というのは、
基本的にプラスのイメージです。
しかし、ジョブズ氏は、マイナスイメージのある "Foolish" という言葉を
あえて使うことで、「たとえ他人からバカだと思われようとも…」
というニュアンスまで含めたのではないかと思うのです。

他の訳例も検討していきましょう。
「愚かであれ」というのは、一応、正しい訳かもしれません。
しかし、ねこ個人としては、不適切であると感じます。
それは「愚か」という言葉には、プラスのニュアンスが、
かけらも入っていないように思えるからです。

「愚直であれ」は誤訳になってしまいます。
「正直すぎて気がきかない」「馬鹿正直」という形で
「正直」というニュアンスまで含めてしまうのは、
やや極端な解釈です。

ねこが気に入っているのは「バカであれ」。
「バカ」という言葉は基本的にはマイナスのイメージですが、
『釣りバカ日誌』という映画のタイトルでもあるように
何かに夢中になっているという意味もあります。
なので、「バカであれ」という訳にすれば、
ジョブズ氏が意図したと思われるマイナスイメージとプラスイメージを
共存させることができるのではないかと思うのです。

というわけで、ねこが訳すとしたら、
「どん欲であれ、バカであれ」となるでしょうか。

しかし、翻訳の世界では、
すでに出版されて活字になっている言葉というものが
非常に大きな力を持ちます。

実はこの名言をタイトルにした本があり、
日本でも訳書が出版されています。


















というわけで、何かオフィシャルな場面では
翻訳者は、好む好まざるにかかわらず
この“定訳”を使うことになるでしょうね。

皆さんなら、どう訳しますか?