2015年5月25日月曜日

"challenging"

皆さま、こんにちは。ねこです。
毎日、いろいろなものを訳しています。

翻訳の仕事では、通常、
制作者や発言した本人に、
その発言の意図を確認することはできません。
なので、必死でリサーチをし、
できるかぎり、その人の気持ちに(勝手に)寄り添い、
最もふさわしい日本語を探ります。

訳し方は、翻訳者によって十人十色。
唯一の正解というものは存在しません。

ところが、最近、正解を確認できる機会に
恵まれています。
以前、このブログでご紹介した
発音矯正のポペノ先生との
共同翻訳作業です。

「発音の神様 ポペノ先生」 (2015年1月26日の記事)
http://interesting-languages.blogspot.jp/2015/01/blog-post_26.html

ポペノ先生は、長く日本に
住んでいらっしゃったこともあり、
日本語を話せるだけでなく、
ハイレベルな読み書きもできます。

そのため、先生の書いた英文を
私が日本語に訳し、
それが、ご本人の意図したとおりに
訳されているかを
確認してもらうことができるのです。

そんな作業の中で、
先日、非常に面白い発見がありました。
問題となった文章は、こちら。

"This work is challenging"

発音矯正についての文章だったので、
"this work"というのは、発音矯正のことです。
なので、ねこは最初、次のように訳しました。

「発音を直すのは大変です

しかし、これは先生の意図とは
大きくズレていました。
先生はご自身の書いた文章の意図について
こんな説明をしてくれました。
(※ご本人の日本語ではなく、ねこの訳ですが…)

「“大変”と書いてしまうと、
“達成できない困難なこと”という印象を
与えてしまうけれど、
僕が伝えたいのはそういうことではないんだ。
集中して、しっかり努力する必要はあるけど、
でも、とても楽しくて(fun)、
ワクワクするような(exciting)もの
というニュアンスの言葉を書いて、
みんなに、やる気を出してもらいたいんだよ」

なるほど。

では、あらためて"challenging"の意味を
辞書で調べてみましょう。

<ランダムハウス英和大辞典>
1. 挑戦的な、人の能力を試す、骨の折れる、大変な、苦しい
2. 意欲をそそる、やりがいのある、興味をかき立てる、深く考えさせる

<Oxford Advances Learner's Dictionary>
1. difficult in an interesting way that tests your ability
2. done in a way that invites people to disagree or argue with you, or shows that you disagree with them

<Concise Oxford Thesaurus(類語辞典)>
demanding, testing, taxing, exacting, stretching, exciting, stimulating, inspiring, difficult, tough, hard formidable, onerous, arduous, strenuous, grueling
--opposites: easy, uninspiring

<英辞郎>
1. 能力が試される、困難だがやりがいがある
2. 興味がそそられる、魅力的な

英辞郎のフレーズと、その日本語訳を見ると
"challenging"という単語が
さまざまなニュアンスで使われていることが
よく分かります。

challenging atmosphere
やりがいのある環境

challenging attitude
挑戦的態度

challenging business environment
厳しいビジネス環境

challenging discussion
厄介な話し合い

challenging in practice
《be ~》実際には[実行するとなると]難しい

challenging period
試練の時期

challenging research
やりがいがある研究

emotionally challenging
《be ~》感情的につらい、心情的に苦しい

offer a challenging job
やりがいのある仕事を与える

先生の話と、辞書の意味や例文を総合して考え、
先ほどの文章は、
こんなふうに訳すことになりました。

「発音矯正は、とてもやりがいがあります

これは、読むための日本語原稿だったので、
字数を気にする必要がなかったのですが、
字幕として訳すとなると、
なかなか難しいですね。
「面白みがある」といったところでしょうか。

この"challenging"という言葉、
最近では、訳さずに、
「その仕事は、なかなかチャレンジングだよ」
などと言う人も見かけるようになりました。
(ねこのまわりだけかしら?)

しかし、日本語の文脈で、
本当に自分の意図したことを
相手に伝えるためには、
「チャレンジング」というカタカナで誤魔化さず、
しっかりと日本語の語彙を使いたい気がします。

ところで、ポペノ先生についての記事が、
ニューヨークの情報サイトに
最近、掲載されたそうです。

No.50 なぜあなたの「ホット・ティー」は通じないのか? 日本人に特化した発音矯正、ポペノ・メソッドで目ウロコ百枚落ち! New York NICHE
http://nyniche.com/archives/9577

この発音矯正のコースを
日本でも受講できるように、
今、コツコツとビデオ教材を作っているので
楽しみにお待ちくださいね♪