2014年7月10日木曜日

もっと字幕のお話

皆さま、こんにちは。ねこです。
正午に無事、スポーツ番組を納品しました。
今回訳したのは30分番組。
先週の金曜日の夜に、ご依頼をいただいて、
今日の正午に納品です。
まあ、わりと標準的なスケジュールと言えるでしょう。

作業ペースは、もちろん人にもよりますが、
ねこ自身として、安心できるのは、
1日10分+前後1日です。

初日は用語などの下調べ作業と
ハコ切りという字幕を入れる場所を決める作業。
そして、調べ物などもしつつ、
1日あたり10分ずつ訳し、
最後の日は、全体の見直しと文章を推敲をします。

とはいえ、それがスポーツ番組なのか、
歴史や科学のドキュメンタリー番組なのか、
ドラマなのかによっても、
かかる時間は大きく違ってきます。

基本的に、ドキュメンタリーは、
調べ物が膨大なので時間がかかりがちです。
地名、人名、通りの名前、人の年齢など、
固有名詞や数字が出てきた場合は、
それが正しい数字であるか確認する作業も
翻訳者の仕事に含まれます。

最初はこれが苦痛で仕方がありませんでした。
「英語でそう言ってるんだから、
別に調べなくてもいいじゃん」と思っていたのです。

でも、実際に数多くの番組を訳していると、
ナレーションや実況中継などでも、
時々、間違った情報を言っていることがあるんです。
また、数字などの情報確認をしたことで、
自分の誤訳に気づくことも多々あります。

今思うと、翻訳を始めた当初は、
とにかく「期限までに納品する」ということだけで
頭がいっぱいだったんですね。

でも、ある時から、翻訳エージェントや制作会社は
決して自分の「敵」なわけではなく、
一緒に最高の番組を作る「仲間」なんだと
思えるようになり、
申し送りなどを書く時も、
どう書けば、相手が次の作業をしやすいか
というのを考えるようになりました。

視聴者の立場で読みやすさを判断する
ということが少しできるようになってきたのも
そのころからかもしれません。

字幕を客観視するための面白い方法があります。
それは、家族や友達などに、
字幕を入れた映像を見てもらうことです。
「あれ? 今のどういう意味だろう?」
って思うところがあったら言ってねと伝えて、
字幕入りの映像を再生します。

すると、これは本当に不思議なのですが、
自分1人で机に向かっていたときには、
まったく気づかなかったようなことに
自分自身でいろいろ気づくのです。

実際、家族や友人は、
「ああ、分かりやすかったよ」
「面白いね」という程度の感想しか
言ってこないかもしれません。

でも、印刷した字幕リストを持って、
一緒に画面を見ていると、
「あっ、ここの言い回しを変えよう」
「ここの表現は分かりにくい」
ということに気づくのです。
これが視聴者の立場で見るという
ことなのかもしれませんね。

さて、字幕制作ソフトについて
ちょっとお話ししましょう。
先日もお見せした画像ですが、
私たちはこんな画面上で字幕を作ります。


下のギザギザが音声の波形です。
それを適宜2秒から6秒程度で
ちょっきんちょっきんと切って、
字幕を出すタイミングを決めていきます。
これをスポッティングまたはハコ切りと言います。

ハコを切ると、1枚の字幕で使える文字数が
自動的に表示されます。
テレビ番組は、今のところ1秒あたり4文字計算です。

今、入力中なのが137番という字幕ですが、
「最高13.5 使用12.0 残り1.5」と表示されています。


これは最高で13.5文字入れていいですよ。
今、使っている文字数は12文字ですよ。
あと1.5文字入れても大丈夫ですよ。
という意味です。

基本的には「最高XX」と書かれた制限文字数の
前後1~2文字に収めるように字幕を作ります。
カタカナの固有名詞などは、
ひとかたまりの文字として、サッと読めるので、
場合によっては4~5文字オーバーまで
許される場合もあります。

そういう特殊な状況でもないのに、
10文字オーバーなどの字幕を書くと
チェッカー(字幕をチェックする人)が
怒り狂う場合があるのでご注意ください(笑)

でも、例えば企業向けビデオなどでは、
「字数はオーバー気味でも
できるだけ情報を落とさずに書いてください」
という指示が出る場合もあるので、
そのあたりは臨機応変に対応する必要があります。

ところで、ここからは完全に翻訳者さん向けの
非常にマニアックな内容なのですが、
最近、ハコ切り方法をちょっと変更しました。

字幕翻訳の裏ワザについては、
以前のブログ記事をご参照ください。
http://interesting-languages.blogspot.jp/2013/09/blog-post_30.html
http://interesting-languages.blogspot.jp/2013/10/blog-post.html

以前は、8ボタンマウスに
字幕分割のショートカットを割り当てて、
ボタンでサクサクと切っていたのですが、
キーボードだけを使ったほうが、
手の動きが少なくて済むことがわかりました。

やり方はこうです。
「ファイル」→「ショートカットキー設定」で、
「現字幕を分割」を「Ctrl + D」に設定します。
これは一度設定してしまえば、
いつでも使えます。

そして、新規案件の映像が届いたら、
まず、SST G1で読み込み、
自分の担当部分を1枚の長~~いハコにします。
例えば、30分番組なら、30分のハコ1枚か
CMを挟んで15分のハコを2枚作るのです。

次に冒頭部分にカーソルを置き、
左手の小指を「Ctrl」、左手の中指を「D」に、
右手の人差し指を「←」、薬指を「→」に。

あとは「→」で映像を走らせ、音の頭を確認。
3フレ戻しなら「←」をポンポンポンと3回押し、
左手小指と中指の連携プレーで「Ctrl + D」。
こうして、最後までどんどんハコを切っていきます。
この段階で見るのは、あくまでもIN点のみです。
(※1フレ中に入れてカット変わりに合わせる時は、
映像の変わったフレームの1つ右で
「Ctrl + D」を押せば大丈夫です)

その後、また冒頭に戻り、
今度は話のまとまりごとに(5~6枚ずつ)、
原文をコピペして、OUT点の調整をしつつ、
字幕を作っていきます。

OUTの切り方は一旦マウスで縮めてから、
適宜伸ばしてもいいし、
「→」でOUTにすべき場所を確認して
直接TCを打ち込んでもいいでしょう。

ひとつだけ気をつけなくてはいけないのは、
打ち込んだTCのフレームは、
字幕のハコの外になるということです。
例えば10:02:26:03と打ち込んだ場合、
字幕が表示されるのは10:02:26:02までです。

さて、こんな細かい作業の話を聞いても
何だか字幕の世界に惹かれてしまったあなた、
これは、飛び込んでみるしかありません!


翻訳学校の回し者ではありませんが(笑)、
でも、本当に今の自分があるのは、
日本映像翻訳アカデミーと
翻訳仲間たちとおかげだな~と
つくづく思う今日このごろです。^^