2014年7月21日月曜日

字幕翻訳者の未来は?

皆さま、こんにちは。ねこです。
今朝の読売新聞に
衝撃的な記事を見つけました。
首都圏版2面、総合です。

「テレビに外国語字幕」という囲み記事で、
訪日外国人がより快適に過ごせる環境を目指して、
テレビのニュース番組などに英語や中国語の
字幕が表示されるよう取り組むという
総務省の取り組みについて書かれています。

おっ、新たなビジネスチャンス到来♪
やっぱり日英翻訳も始めようかしら?
と思いつつ、読み進めていくと、
自動翻訳システムで外国語に変換した字幕を
ネット経由で画面に映す仕組みを想定」と
書かれているではないですか。

むむむ…。
総務省によるニュースリリースはこちらです。

「スマートテレビ時代における字幕等の在り方に
関する検討会」取りまとめ(概要) (全4ページ)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000301053.pdf

「スマートテレビ時代における字幕等の在り方に
関する検討会」取りまとめ (全60ページ)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000301177.pdf

翻訳者として、この手の記事は、
まあ、とりあえず焦ります。
そして、次に、「自動翻訳になんて負けるもんか」
という気持ちになります。

しかし、本当に大事なことは、
言語の橋渡しをして、
人々の利便性を向上するということ。
その視点を最優先しつつ、
このニュースについて客観的に考えてみようと思います。

総務省のリリースには、こんなことが書いてありました。

本検討会においては、以下の2つの典型的なサービスに分けて検討した。

A 正確性(内容、遅延)についてベストエフォート(※6)であること
を、あらかじめ前提としたサービス 

B 高い正確性を確保したサービス(日本語字幕のように、内容面で
の一定の高い正確性(翻訳精度)と最小の遅延で字幕を提供するサ
ービス) 

※6 「最大限の努力」はするものの、品質(正確性)は保証しないもの。 

このベストエフォートといういうのは、
ある意味、このサービスを提供する上での
キーワードになってくるかと思います。

すべて人間の手で訳して字幕を出すとしたら、
コストも時間もかかるため、
自動音声認識や自動翻訳を使うけれど、
その精度が完璧ではないという事実を
視聴者にも分かるようにするという点が重要なのです。

でも、「自動音声認識」を使うというのは、
かなり難しい気がしますね。
例えば、こんな日本語はどうでしょう。

「こちらは、敗者の田中さんです」
「こちらは、歯医者の田中さんです」

どちらも【ハイシャ】で、
発音もアクセントも、まるっきり同じです。

自動翻訳には、対訳コーパスというものを使用して、
膨大な言語データから、適切な訳語を拾い上げる
という方法が取られるかと思いますが、
そもそも音声認識の段階でつまずいてしまっては、
正確な翻訳にもたどり着きません。

ですから、自動音声認識した日本語を
ほんの数秒遅れで、人間が修正し、
それを自動翻訳したものを、
数秒から数分で人間が修正する、
という形が限界という気もするのですが、
実際のところ、技術の進歩は
どこまで来ているのでしょうね。

テクノロジーの進化に対して、
むやみに抵抗感だけを示すというのは、
時代の流れに逆らう行為だと思います。

生き残れる人材、生き残れる会社というのは
テクノロジーを受け入れ、
みずからも変わり続けます。

例えば、イギリスの新聞社フィナンシャルタイムズは、
デジタル化のメリットを生かし、
購読者数をさらに増やしています。
「紙媒体かパソコンかモバイルか
そんな議論はもはや必要ありません」と
マネージング・ディレクターも語っています。
https://www.youtube.com/watch?v=H-pSfblPuWM&list=UUEWplP9qrhNjXVggK5W5CvA
(※動画の字幕翻訳 Byねこ)

しかし、テクノロジーに頼るだけではなく、
テクノロジーに取って代わられないもの、
人間がすべき仕事は何なのか
ということも考える必要もありそうです。

例えば、デジタルカメラの出現と進化で、
素人でも、かなり上手に写真が撮れるようになり、
カメラマンの仕事が激減しているといいます。
それでも、どんなアングルで撮るか、
被写体からどんな表情を引き出すかといった部分は
まだまだ人間に寄るところが大きいように思います。

翻訳にも同じことが言えるでしょう。
電子機器のマニュアルや定型文の多い文書などは、
これから、どんどん自動翻訳される時代になるかと思います。
(自動翻訳した上で、最終的に
人間によるチェックは必要かと思いますが…)

しかし、文学作品や映画、ドラマ、
ドキュメンタリー番組などの翻訳には、
まだまだ人間の感性が必要かと思います。
(少なくとも、そう願っています)

映画『カサブランカ』に、
「君の瞳に乾杯」という名訳があります。
この原文は、
"Here's looking' at you, kid."なのですが、
Google翻訳を使ってみると、
こうなりました。

ここで「見ている、子供。

ああ、よかった。(^^;
まだまだ人間の活躍の余地はありそうです。

でも、ただ、「いぇ~い、人間の勝ち!」
と喜んでいるだけでなく、
訪日外国人の方たちに滞在を楽しんでもらうために
翻訳者として、人間として、
何ができるのかというのは、
引き続き考えていかなくてはいけませんね。