皆さま、こんにちは。ねこです。
ここのところ、音楽CDの歌詞を
たくさん訳しています。
歌詞を訳すときは、字幕を訳すとき以上に
ネイティブの協力が必要になります。
文字どおりの意味が分かっても、
その背後にある文化的背景や
ニュアンスまでつかみきれない場合が
多いからです。
アメリカ人の友人に歌詞対訳の相談をしていたところ
いくつか面白い表現を教わったので、
今日はそれをご紹介しようと思います。
"out of sight, out of mind"
直訳するなら、「視界の外、心の外」
という感じになりますが、
本当のニュアンスは、
「見えなくなるものは忘れられる」。
日本語の諺で言うところの、
「去る者は日々に疎し」と同等の表現です。
そして、今回の歌詞では、
この表現をアレンジした言葉遊びが
登場しました。
"out of sight, out of my mind"
実は後半に"my"が挿入されるだけで、
意味がガラリと変わってしまいます。
"out of one's mind"には、
「正気を失う」という意味があります。
つまり、これは、
「あなたが姿が見えないと、
私はどうにかなってしまう」
という熱烈なラブソングなのです。
たった1単語で、
「いなければ忘れちゃう」から
「いなければおかしくなっちゃう」に
180度意味が変わってしまうとは
本当にびっくりですね!
また、別の曲の歌詞には、
意外な表現が隠されていました。
"crush my car into the bridge"や
"let it burn"などのフレーズが出てきて、
とりあえず、字面どおりに訳していたのですが、
アメリカ人の友人は歌詞を見るなり、
「ああ、これはお決まりの表現なの」と
あっさり歌詞の真意を理解した様子。
なんと、キーワードは「橋」でした。
"burn one's bridges"という慣用表現があり、
「後には引き返せない状況を作る」
「背水の陣を敷く」というのがその意味です。
橋を渡り終えたら、自分でその橋を燃やして、
元には戻れない状況を作る
というニュアンスですね。
そして、歌詞の英語表現は、
"burn one's bridges"をもとにしたもので
「自ら恋人との関係を終わりにして
もう二度とよりを戻せないくらい
修復不可能な状態にした」
という意味だったのです。
ひゃ~、びっくり!!
ちなみに、ここまで意味が違う場合は、
クライアント向けに申し送りを添付して、
対訳には字面どおりの訳は載せず、
日本人が理解できる訳を書くこともあります。
しかし、ラップの歌詞などの場合は、
あまりにストレートに訳しすぎると、
いかがわしすぎる場合もあるので、
その時は、曖昧な表現で、
ほのめかすという工夫をすることも。
いやはや、それにしても、
仕事をすればするほど、
知らない表現が次から次へと
飛び出してきます。
ネイティブに確認して
本当のニュアンスを聞くと
マジで冷や汗が出てきます。
とにかく翻訳者としてやるべきは、
英語圏の映画やテレビ番組を見まくり
たくさんの本を読み、
英語的感覚を身につけること。
それと同時に、訳すときは、
単語やフレーズの裏に
何か別の意味があるのではと
疑ってかかることですね。
あ~、ネイティブの脳みそが欲しいです。(^^ゞ
P.S.
今回訳したCDは、まだ発売前のため、
アーティスト名、曲名などの情報は
発売後に公表させていただきますね。