今日は、ニューヨーク市立大学(CUNY)で学んだ
言語習得のプロセスについて、
お話ししようと思います。
今回学んだことは、
母国語の習得についてのプロセスなので、
第二言語の習得とは異なります。
子供がどの段階で何を認識でき、
どの段階で、どういう発話ができるのか
ということが中心なので、
英語学習に直接役に立つ内容ではありません。
むしろ、子育て中のパパ、ママたちには
とても参考になるでしょう。
まあ、驚愕の事実が次から次へと出てくるので
お子さんが身近にいない人にとっても、
雑学的な意味で、ネタにはなるかもしれません。
英語学習者としては、
「え~~~、子供って、そんな早い段階に
そんなことができるの?」と
驚愕と落胆を繰り返すばかりですが(汗)、
「では、大人になってしまった今、
できることは何なのか」
というのを考えるきっかけにはなりそうです。
では、本題に入りましょう。
まずは、こちらの動画をご覧ください。
BBC Baby Synapse Connection
https://www.youtube.com/watch?v=8J-JflThHks
すべて英語なので、かいつまんで
内容を説明します。
英語だけだとわからない人は、
こちらの要約を読んでから再生してみてください。
冒頭部分で、Lemur(キツネザル)が登場します。
このキツネザル1匹1匹を別の個体として
認識できるかという実験が始まります。
<1:08~>
まず、6か月以上9か月未満と
9か月以上の乳児に、
キツネザルの写真を見せると
最初はどちらも喜びます。
<1:30~>
9か月以上の乳児に
別のキツネザルの写真を見せますが、
同じ写真だという認識となるため
新鮮味がなく、飽きてしまいます。
<1:53~>
次に9か月未満の乳児に
別のキツネザルの写真を見せます。
彼らは顔の違いを認識できるので
新しい写真に夢中になります。
<2:40~>
植物の種の映像に切り替わり、
この事象についての解説が始まります。
人間は生まれた時点では、
かなり広範な認識能力を備えているのですが、
成長するにつれて、必要のない能力を
失っていきます。
最初はすくすくと成長した植物の芽が
日の当たる場所では成長を続け、
日の当たらない場所では
枯れてしまうのと同じことです。
つまり、これを日本人の英語習得に
当てはめて考えると、
私たちも生まれてからしばらくは
LとRを識別する能力があったのですが
母国語の日本語を聴いているうちに、
「その違いは重要ではない」と脳が判断し、
そのまま識別能力が失われてしまった
というわけです(涙)。
(※ただし、この能力は完全に失われたわけではなく
たくさん聴き、たくさん真似をすることで、
再び高めることは可能です!!)
では、どの時点で母国語と外国語の
音の識別ができるようになるのでしょうか。
これについては、日本語の解説が見つかりましたので、
興味のある方は、こちらの記事もご参照ください。
胎内で言語を認識し始める赤ちゃん
http://www.babytopia.jp/resources/?p=1678
馴染みのある音声を耳にした時に
おしゃぶりを噛む頻度が上がるという実験により、
赤ちゃんは、生後まもない段階でも、
母国語(native language)と
外国語(foreign languages)の違いを
認識できることがわかっています。
乳幼児の言語認識に関する実験に
興味がある方は、こちらの動画もご覧ください。
Three procedures for investigating infant speech perception and language development
https://www.youtube.com/watch?v=EFlxiflDk_o
おしゃぶりを使った実験
(The high amplitude sucking procedure)や、
どちらを向くかの実験
(The head turn preference procedure)
どちらをより長時間見つめるかの実験
(The preferential looking procedure)について
詳しい説明があります。
もう1つ、衝撃の実験結果があります。
英語圏の幼児が、いつの時点で、
単数形と複数形を認識できるようになるか
という実験です。
箱の中に車のおもちゃを入れ、
"Could you get my car for me?"
と言った場合と
"Could you get my cars for me?"
と言った場合に、幼児の行動に
差が出るかという実験を行ったところ、
1歳8か月(20 months of age)の幼児は、
おもちゃの車を1つつかんで渡しますが、
2歳(24 months of age)の幼児は、
車を1つ見つけたあと、
もう1つを探そうとするのだそうです。
詳しい内容を知りたい人は、
こちらのハーバード大学の論文を
ご参照ください。
Acquisition of Singular–Plural Morphology
http://www.wjh.harvard.edu/~lds/pdfs/Wood2009.pdf
ちなみに、認識できることと、
実際に言葉として出てくるまでには
時間差があります。
幼児の発話で、複数形が出てくるのは
2歳3か月~2歳6か月ぐらいだと言われています。
つまり、2歳までに耳にした音によって
複数形を認識する能力が徐々に発達し、
2歳で認識ができるようになり、
その後、数か月のうちに、自分の言葉として
複数形が使えるようになるわけです。
なので、赤ちゃんが言葉を話さないからといって
無言でおむつを換えたりしてはいけません。
両親やその他のお世話をする人が、
どれだけ積極的に話しかけたかによって、
乳幼児の言語習得に、大きな差が出てきます。
ちなみに、文法事項の習得の順番としては、
進行形の-ing、そして複数形の-s
前置詞のin、そしてon、所有の's、
過去形の-ed、過去形の不規則変化、
三単現のs、冠詞のa、the、anと続きます。
このあたりで3歳児。
う~ん、いまだに前置詞や冠詞で
苦しんでいる学習者としては、
泣きたくなります(苦笑)。
おそらく、ここまで読むと、
日本の教育熱心なパパ、ママたちは、
赤ちゃんに英語のCDを聞かせまくろうと
するかもしれませんね。
ただし、非常に重要なのは、
乳幼児が認識できるのが、
「今」と「ここ」のことだけだということ。
目の前にりんごがあって、
実際に誰かが"apples"と言うのを聞いて
その物体と"apples"という名称が
次第に結びついてくるわけです。
もちろん、まったく英語の音声を聞かないよりは
なんとなくでも聞いていたほうが、
何らかのプラスの効果はありそうですが、
このあたりの事柄については、
今回の講義で学んではいないので、
ノーコメントとさせていただきます。
また、早い段階での外国語学習が
母語に及ぼす影響については、
諸説あるようです。
国際結婚をした夫婦の子供ように
最初からどちらの言語でも
コミュニケーションが行われていた場合は、
認識のプロセスに時間がかかるため、
言葉を話し始めるのが少し遅くなるようですが、
いずれはどちらの言語も問題なく
話せるようになるとのこと。
一方、母国語がある程度身についた
4~5歳ぐらいの時期から
外国語を使う環境に置かれた場合は、
母国語に何らかの影響(文法の間違いなど)が
出ることもあるようです。
おそらくこれは、どちらの言語に
日々どれだけ触れているかに
大きく影響するかと思われます。
いずれにしても、乳幼児期の環境は
言語習得やその後の学歴などに
大きな影響を与えるとのこと。
とはいえ、「母親は家にいて、
ひたすら子供に話しかけなさい」と
言うのはナンセンス。
大事なのは、母親以外でも、
乳幼児にたくさん話しかけて
言語的なインプットをしてくれる人を
確保することだと思います。
また、子供と一緒に過ごす時間がある時は、
たくさん話しかけたり、
本の読み聞かせをするなどして、
コミュニケーションの質を高めることが
大切かもしれません。
さて、母国語ではなく外国語を学ぶ私たちは
どんな努力をしましょうか。
とりあえず確実に言えることは、
言語学的インプット(聞くこと)が
非常に大切だということです。
また、一度は失われてしまった
LやR、THなどを認識する力を
復活させるには、ただ聞くだけではなく、
意識的な練習も必要になります。
口の形、舌の位置などを意識しながら
リピート練習、オーバーラッピング、
音読練習などを繰り返していきましょう。
こちらのポペノ・メソッドの
ビデオを見ながら、
口の筋肉の動かし方の練習をするのも
発音の改善にとても役立ちます。
https://www.youtube.com/user/popenoemethod/videos
大人の場合、大切なのは、
「意識すること」だと思います。
もちろん、ただ音声を聞き流すだけでも
少しずつ効果は表れますが、
発音や文法を意識しながら
声に出して練習すると、効果は倍増します。
ま、焦らずボチボチやっていきましょう。
最後に笑うのは、
ちょっとずつ末永く続けた人です!
ところで、なぜ、ねこが第二言語の習得ではなく
母国語の習得のプロセスの講義を
聴講したのか、不思議に思う人もいるでしょう。
実は、この3週間の集中講義、
元同僚の友人が講師だったので、
無料で聴講させてもらっていたのです。
月~金、9時から12時、3週間。
普通は週1で15週間かけてやる講義なのですが、
冬学期の短期集中講座ということで、
1月2日から1月23日という
絶妙なタイミングで受講ができました。
でも、もし次に機会があったら、
第二言語の習得のプロセスについても
ぜひ学んでみたいと思います。
あるいは第二言語習得についての
大学のテキストを買って
読んでみるのもいいかもしれませんね。
言語に関する飽くなき追求は
まだまだ続きます♪